王者の意地

 2014年スペインGPは大変興味深い一戦でした。チャンピオンシップ自体は、前戦までと同じくメルセデスGPの二人による争いでしたが、3位以下争いはチームの戦略とドライバーの技量が絡み合った、非常に熱の入ったもので、ややわかりづらいところはあるものの、F1の面白さを凝縮したような展開。

 まずなんといっても、レッドブルのダニエル・リチャルドとウィリアムズのバルテッリ・ボッタスのポジション争い。
 現在のところ、メルセデスを除くチームの中では最速と思われるレッドブルですが、それはコーナーリングスピードによるところが大きく、逆にストレートスピードは大変に遅い。このため、ホームストレートの長いこのサーキットでは、他チームにとっては最大のオーバーテイクポイントであるホームストレートのDRSゾーンがあまり役に立たないため、リチャルドとしてはメルセデスの二人はともかく、3位ポジションだけはキープしておきたい。しかし、残念ながらスタートに失敗したリチャルドはボッタスに先行を許し、予想通りDRSゾーンで差を詰めることができずに、第1スティントの間中ボッタスの後ろで走る羽目になってしまいます。
 さて、問題なのはここから。リチャルドは15周目という早い段階で最初のタイヤ交換を行います。今回の決勝は2ストップ、もしくは3ストップの展開が予想されており、66周を争う中で15周目のピットインということは、おそらくリチャルドは3ストップになると思われました。ウィリアムズ側もその判断をしたようで、ボッタスの最初のタイヤ交換は21周目のタイミング。周回から考えて2ストップであることがわかります。この時のピットストップでリチャルドに先行されたものの、3ストップ作戦と思われるリチャルドはあと2回ピットインせねばならず、残り1回で良いボッタスは一時的に先行されたとしても、最終的にはリチャルドの前でフィニッシュできるだろうという計画です。
 しかし、ここからレッドブル・リチャルドの走りは周囲の思惑を大きく超えていく。なんとリチャルドは、ミディアムタイヤを履いた第2スティントで、31周というロングランを行います。その間ずっと大きくタイムを落とすことなく、です。
 そして長々走った46周目、ようやくリチャルドは2度目のタイヤ交換のためにピットインしますが、この時点でボッタスもタイヤ交換せざるを得ず、ここで勝敗が決しました。
 もちろん勝者は早めのタイヤ交換で3ストップと思わせ、その実、超ロングランで2ストップ作戦を成功させたダニエル・リチャルド。ライブタイミングを見ながら、見事、と唸らされた素晴らしい走りでした。してやられたウィリアムズもさぞや悔しい思いだったことでしょう。そうとわかっていれば、対処も出来たでしょうから。


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 そのリチャルドの同僚であり、前年まで四連覇を成し遂げたフォー・タイムス・チャンピオンであるセバスチャン・ベッテルも、今回のGPでようやく遅い目覚めを果たしたかもしれません。予選Q3でギアボックストラブルの憂き目にあい、グリッドは15番手という後方に沈んだのを見て、「ああ今回もベッテルはだめなのだな」と思ったファンは多かったはず。しかし、開幕からリチャルドの後塵を拝し続け、前年までのパフォーマンスはどこへやら、ひたすら地を這い続けていたチャンピオンは、ここから驚異の追い上げを見せます。
 第1スティントは後方の遅い集団のなかで本来の速度域で走れず、ひたすらフラストレーションの溜まる展開でしたが、13周目という全体でもっとも早い段階でタイヤ交換をした後は、その頃にはややばらけていた後方集団を一人ずつオーバーテイクしていき、第2スティント、第3スティントと進むに連れて順調にポジションアップを果たし、47周目ではタイヤ交換を終えたボッタスの前にたつ5番手にまで順位を上げてきます。
 ここで問題になるのはベッテルのタイヤの状態。彼は35周目で2度目のタイヤ交換をしていたので、この時点では13周オールド。残りは19周ですから、都合32周を走り切ることができれば、タイヤ交換をしなくても良い、ということになります。そうなれば、タイヤ交換の近いアロンソの前、4位でフィニッシュすることが可能です。実際、同僚のリチャルドが31周のロングランを成功させているわけで、可能性だけならベッテルにだってできると言えます。タイヤマネージメントが抜群にうまいリチャルドと一概に同じには言えませんが、それでも可能性はゼロではないでしょう。そして、ベッテルを応援している人たちも、この時点では32周ロングランに期待をかけていたと思います。しかし、ベッテルは危険性の高いロングランを避け、53周目に3度目のタイヤ交換を行い、ライコネンの後ろの7番手まで下がってしまう。
 さすがに4番手は望み過ぎか……と思われましたが、ここからが絶対王者の意地。次周、ベッテルのピットインを見て急いでタイヤ交換ピットインしたアロンソを、猛追したベッテルがピットレーン出口で先行します。これで6番手復帰。続いて、タイヤ交換時点で前方約7秒差の地点にいたライコネンに対して一周当たり1.5秒を縮めるという凄まじいラップを重ね、58周目でついにオーバーテイクします。タイヤ差・マシン差があるとはいえ、たった5周で7秒以上のマージンを全て消して抜き去るという、現代F1のトップクラス争いでは滅多に見られない光景。そして勢いそのままに、64周目でバルテッリ・ボッタスをも抜き去り4番手に復帰して、そのままチェッカーを受けました。今季初の、ファステストラップのおまけ付きで。
 終わってみれば、15番手から11人抜きという猛反撃。リザルトこそ今回もリチャルドに勝てなかったものの、その内容は決して引けをとらない、素晴らしいレース。タイヤの周回の違いはあれど、リチャルドが結局はコース上で抜けなかったボッタスを、10コーナーでスパーン!と抜いていった光景も、開幕から歯痒い思いをしていたベッテルファンの溜飲を下げたことでしょう。

 他、レッドブル勢のみならず、メルセデスGPのドライバー唯一のライバルといえる同僚同士の闘い、ルイス・ハミルトンvsニコ・ロズベルグ、また、ベッテルと同じく今期いまいち調子の上がらなかったキミ・ライコネンが見せたライン取りの芸術など、非常に見どころの多いレースだったといえるでしょう。
 今期は、チャンピオンシップ争いという観点ではメルセデスGPがあまりに圧倒的で、もはやどうしようもない、手の付けられない展開になっていますが、レース内容についていえば、あるいは前年度までよりも面白みのあるレースが展開されています。
 ノーカットの生放送をライブライミングを見ながら観戦しないとわかりづらいという難点はあるものの、内容を理解できるようになってくれば、たまらない魅力あふれるレース展開ばかりです。F1をあまり知らない人にも、ぜひ詳しい人を横において解説してもらいながら、見てほしいと思います。

 さて、次戦は5月22~25日、世界三大レースの1つであるモナコ・グランプリです。ストレートが少なく、道幅の狭く曲がりくねったコースレイアウトは、今期レッドブルがもっとも力を発揮するレースかもしれません。つまり、少なくともカレンダー前半では、メルセデスGPを撃墜できる最大のチャンスと言えます。コーナーリング最速マシンの真価を発揮できるかどうか、今から楽しみです。

2014年5月12日

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