2014F1モナコGPの裁定について(再修正版)

 2014F1モナコGPは、ベッテルのギアボックストラブル&ERSトラブルによるリタイアを含めて完走率の悪さが目立ち、セーフティカーが2度入る……これだけ見ると「波乱」の展開ですが、実際には全体の動きの少ない、退屈なレースとなってしまいました。
 散発的に発生するイベントとしても、ハミルトンの目にゴミが入るなどして視界が悪くなり、最終盤でリチャルドとバトルせざるを得なくなった、あるいは、レース巧者のライコネンがセーフティカー中にデブリを踏んでパンクしてポジションを落としたり、マグヌッセンをオーバーテイクしようとして曲がりきれずにヘアピンで停止したりと、せいぜいその程度のもので、お世辞にもレベルの高いとは言いがたいものばかり。
 さてそのさなか、各所で発生する接触やアンセーフリリースのため、5秒のストップ・アンド・ゴー・ペナルティが数人に出されることになりましたが、マルシャF1チームのジュール・ビアンキがこれを消化せずにレースを終えてしまうというトラブルが発生します。
 おそらく彼らはセーフティカーラン中にペナルティを消化した、というつもりだったと思うのですが、実際にはセーフティカーラン中のペナルティ消化は認められておらず、その後、レースコントロールから何度も「ペナルティを消化しなさい」という指示が出されます。しかし、レース中にそれが実行されることはなく、ついに未消化のままチェッカーフラッグを迎えてしまう。
 この時点でのリザルトは8位。マルシャにとっては初のポイントゲットです。ただ問題は、ペナルティ未消化=ペナルティ無視の事実が、どのように判断されるか。もし25秒加算であれば、レース後のギャップからして11番手になりポイント圏外。それでもまだ完走扱いですが、レース失格という裁定が下されれば最悪です。
 しかし、実際にくだされた裁定は5秒加算のみ。ビアンキはポジションを落としはしましたが、9番手ということになり2ポイントゲット。初のポイントですが、これについてはtwitter上などでも疑問が挙げられていました。そんな軽い裁定でいいのか?と。

レース後の空に浮かぶ飛行船
K-r + DA-L 18-55mm F3.5-5.6AL

 論点は二つ。「なぜ失格にならないのか?」、「5秒加算程度の軽い罰則で済むなら、レース中のストップ・アンド・ゴー・ペナルティ(タイムペナルティ)は無視すればいいということにならないか?」。
 まず前者ですが、FIAのレース規則では第16条3項a)に次の条文があります。

a) A five second time penalty. The driver must enter the pit lane, stop at his pit for at least five seconds and then re-join the race. The relevant driver may however elect not to stop, provided he carries out no further pit stop before the end of the race. In such cases five seconds will be added to the elapsed race time of the driver concerned. 

 和訳としては「a)5秒のペナルティ。ドライバーはピットレーンに入り、少なくとも5秒間、自分のピットで停止した後、レースに再加入しなければならない。ただし、ドライバーがレース終了までにピット・インする必要がない場合に停止しないことを選択する場合がある。このような場合、ペナルティの5秒は当該ドライバーのレース終了後に追加される。」になります。
 このようなレギュレーションなので、ビアンキが失格にならないのはルール上問題ありません。もともと想定されているパターンです。

 残るは後者の問題ですが、これについては「5秒タイムペナルティ」と、「10秒タイムペナルティ」や「ドライブスルーペナルティ」とでは、レギュレーションの文章が違っていることに注意する必要があります。
 注意すべき箇所は「The relevant driver may however elect not to stop, provided he carries out no further pit stop before the end of the race. In such cases five seconds will be added to the elapsed race time of the driver concerned. 」ですが、これがドライブスルーペナルティ、10秒ストップペナルティだと、次のような条文だけです。(16条3項b)、c))

b) A drive-through penalty. The driver must enter the pit lane and re-join the race without stopping. 
c) A ten second time penalty. The driver must enter the pit lane, stop at his pit for at least ten seconds and then re-join the race. 

 ドライブスルーペナルティ、10秒ストップペナルティでは、5秒ストップのような「ストップしない選択」の規則はありません。加えて、5秒ストップペナルティが通常のピット作業でのピットストップ時にも履行できるのと違って、それぞれ単独で履行しなければなりません。
 ただし、残り三周を切った場合に課された場合など、例外的に次のような規則があります(16条3項c)付記)。

If either of the three penalties above are imposed during the last three laps, or after the end of a race, Article 16.4b) below will not apply and five seconds will be added to the elapsed race time of the driver concerned in the case of a) above, 20 seconds in the case of b) and 30 seconds in the case of c). 

 また、5秒ペナルティと10秒ペナルティの差としては、以下の各条文も参考にする必要があります(16条4項c)、d))。

c) Whilst a car is stationary in the pit lane as a result of incurring a penalty under Article 16.3(a) above it may not be worked on until the car has been stationary for at least five seconds. 
d) Whilst a car is stationary in the pit lane as a result of incurring a time penalty under Article 16.3(c) above it may not be worked on. However, if the engine stops it may be started after the time penalty period has elapsed. 

 このように、5秒ストップペナルティは極めて軽い罰則であり、ドライブスルーペナルティ他のようなペナルティとは考え方を変える必要があるということです。他のペナルティを5秒ストップペナルティと同じように考えて無視すると、後で痛い目にあいます。

F1のレギュレーションって難しい! 詳しい人でもけっこう間違えます。このブログの筆者も間違えまくりました(笑)。だから再修正版です。
 もちょっと簡単になるといいんですけどね……。

参考資料:2014 FORMULA ONE SPORTING REGULATIONS

2014年5月26日

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