2015F1日本GP! 土曜セッション part.2 名門の資質

 前回に引き続きF1日本GP。リアルタイムではもうロシアGPもアメリカGPも終わって、ついでにワールドチャンピオンまで決まっていますが、のんびりやります。とりあえずハミルトンおめでとう!

 さて土曜最初のセッションはフリー走行三回目。この日は当初の予定ではB席スタンド上のカメラマンエリアから撮影するつもりでしたが、大量の羽虫が発生していてそれどころではなかったため断念。午前中はC席・D席のカメラマンエリアに陣取ることに。

 金曜日とは打って変わって良い天気のうえ、土曜日なだけあってお客さんはいっぱい。客席に座っている人や両隣のカメラマンの邪魔にならないように、周囲を気にしながらの撮影です。


McLaren Honda MP4-30 / フェルナンド・アロンソ
600mm(トリミング有)・ ISO100・F8・1/100
Canon EOS 70D + SIGMA 150-600mm F5-6.3 DG OS HSM


 金曜のウェットコンディションでもけっこう走っていましたが、ドライコンディションはこの週末初とあって、みんな忙しく周回します。第二の母国レースとなるマクラーレン・ホンダ、財政難という逆境の中でのグランプリとなるロータスあたりは、見ている方も事情を知っているだけに、その気迫が伝わってくるかのよう。


Lotus F1 Team E23 Hybrid / パストール・マルドナード
600mm(トリミング有)・ ISO100・F9・1/100





Lotus F1 Team E23 Hybrid / ロマン・グロージャン
500mm(トリミング有)・ ISO100・F11・1/100


 ロータスはほんと厳しい週末でしたねえ……。差し押さえでホスピタリティすらろくに使わせてもらえない、ガレージにも入れるかどうかわからない、そんな状況。金曜日のフリー走行でコースに出てきたのを見て、ほっと胸をなでおろしたロータスファンは数知れません。
 明日にも空中分解しそうな中、ドライバーもスタッフも、よく気力を保ち続けていたものです。彼らこそ、日本GPのMVPと言って良いんじゃないでしょうか。


Sauber F1 Team C34 / フェリペ・ナッセ
600mm(トリミング有)・ ISO100・F10・1/100


 財政難といえば、ザウバーもずっと苦しいはず。最近はロータスが厳しすぎるせいかあまり言われませんが、シーズン当初はギド・ヴァン・デル・ガルデの契約問題で、その内情のカツカツさを露呈。数年前にBMWワークスとして活動していた頃が、もう懐かしく思えるほど、すっかり小規模チーム(まぁ元々そうでしたが)。
 立場上、いろいろ言われがちなモニシャ・カルデンボーンですが、BMWが撤退した後のザウバーを引き継いで、ここまでよく頑張っていると思います。時として道理に反するようなことでも、実行しなければチームが立ち行かない。良いか悪いかは別にして、彼女は自分のやるべき仕事を全うしていると評価したい。


Sauber F1 Team C34 / フェリペ・ナッセ
400mm(トリミング有)・ ISO100・F11・1/80


 F1全体でテスト日数を削減し、開発にさえ極端な制限をかけ、ドライバーから持ち込み資金を受けてなお、ビッグメーカーを後ろ盾に持たないチームの懐事情は厳しい。
 参戦すること自体が苦難の道のりであるF1で、それでも小規模プライベーターチームは、サーキットにエキゾーストを響かせるべく、日夜奮闘する。
そこには、F1というブランドを利用した宣伝効果や、ある種の名誉欲、あるいは直接の賞金というような理由でない、モータースポーツというものへの情熱が確かにあるのだと思います。
 いま苦しくても、上位チームと絶望的な差があっても、それでもなおいつかポディウムの頂点に立つことを目指して、わずかな資金を創意工夫と情熱で支えながら、グリッドに並び続ける。こういったプライベーターこそ「レース屋」というにふさわしいと、私は思います。

 とはいっても、プライベーターでありながら資金的に裕福なチームもあります。代表格はマクラーレン。このチームが資金繰りに苦労しているという話はあまり聞きません。
 そしてもう一つの代表格がレッドブル・レーシング。世界最大のエナジードリンクメーカーであり、様々なスポーツ活動を積極的に展開する一大イベンターでもある。


Infiniti Red Bull Racing RB11 / ダニール・クビアト
600mm(トリミング有)・ ISO100・F8・1/125


 F1へはジャガー・レーシングを買収して参戦し(ジュニアチームのトロ・ロッソはミナルディを買収して参戦)、4年ほどは下の上、あるいは中の下というようなランキングを推移。2009年に突如覚醒して、2010〜2013年までコンストラクターズとドライバーズの両方を4連覇。
 (少なくとも今年までは)ルノーと技術提携をしているため、このチームをルノーワークスと見ることも可能ですが、厳密にはやはりプライベーターチームの一つ。豊富な資金力と強いドライバーに優秀なエンジニア、そして時の運が味方すれば、純ワークスを相手に圧倒するチームを作ることができるということを、レッドブルは証明して見せました。
 でも、黄金期というものは永遠に続くものではない。F1のテクニカルレギュレーションが大変革した2014年、レッドブルは前年までの快進撃が嘘のように失速する。ハイブリッドパワーユニットの、その最適解を導いたメルセデスの圧倒的な速さの前に、レッドブル他のチームはなすすべなく敗れ去った。それでもレッドブルは3勝を挙げてランキング2位につけましたが、1位とのポイント差は300ポイントという大きなもの。
 その状況下でレッドブルは、自分たちが勝てないのはルノーが提供するパワーユニットが劣っているからだ、という主張を展開します。ちろんルノーも黙ってはおらず、両者の仲は次第に険悪に。

 このような状況を受けて、レッドブルのアドバイザーを務めるヘルムート・マルコが「ルノーのおかげで、我々のシーズンはもう終わってしまっ たようなものだ」と怒りをぶちまければ、レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表も「ルノーは、おそらくメルセデスに対して100馬力は劣っている」と、長年パートナーを務めてきたルノーを批判。
 すると今度はルノーのアビデブールが、フランスのメディアに対して「嘘をつくパートナーと仕事をするのはつらい」と反撃した。

「GP直送:ルノー、ワークス復帰の噂を否定せず」
http://as-web.jp/f1sokuho/info.php?c_id=1&no=64223


 結局、溝は最後まで埋まらず、ついにレッドブルとルノーは離別。レッドブルは他にパワーユニットを提供してくれるメーカーと契約する必要がありますが、今のところメルセデスもフェラーリもホンダも拒否しており、レッドブルは現状窮地に立たされています。
 「ワークス待遇でなければ嫌だ」というレッドブルの条件が厳しいという側面は大きいでしょうし、ここはいったん型落ちエンジンで手を打ち、数年くらいは中団くらいで雌伏の時を過ごしながら、上昇の機会を待つというのが現実的な線でしょう。
 しかしながらレッドブルにそういう選択肢はないようで、追い込まれた彼らは瀬戸際外交を駆使して他メーカーに譲歩を迫ろうとしていますが、成果は芳しくありません。


Infiniti Red Bull Racing RB11 / ダニール・クビアト
600mm(トリミング有)・ ISO100・F8・1/160


 そもそも彼らがF1に参戦したのは、レースが好きだったからというような牧歌的な理由ではない。レッドブルは基本的に自社の商品のマーケティングのために参戦しているのであり、そこが他のプライベーターたちとの違いです。
 勝てるパワーユニットにこだわるのも、勝たなければ宣伝にならないと考えているからで、そのことは、当人たちのコメントとして直接的に語られています。

「だが、もちろんそうならなければリスクが存在する。なぜなら、レッドブルのポジションはマクラーレンやウィリアムズ、フェラーリといったチームとは違うからだ。F1は利益をもたらさなくてはならない。世界的なマーケティング上の利益だ。また、そうするためには自由に使えるツールという点で制限されない状態である必要がある」
「マテシッツはF1に幻滅しつつあるとホーナー」http://ja.espnf1.com/redbull/motorsport/story/208573.html


 そのこと自体は間違った考え方ではない。F1に参戦する動機は十人十色であってよい。しかし、少し勝てなくなったからといって癇癪を起こし、それまでの圧倒的な強さを支えていてくれたパートナーを罵るような、そんなチームにまともなブランドイメージなど着くはずがない。

「レッドブルの成功を見てきた僕に言わせれば、それが崩れた途端に不機嫌になるなんておかしいと思うよ」と彼は言う。「そんなチーム、今まで見たことがない。F1を見て育ってきたけど、フェラーリが成功の後で次の年にチャンピオンシップを失い、文句を言う姿は見たことがない。チームっていうのは努力を続けるものだ」
「レッドブルの態度はおかしいとハミルトン」http://ja.espnf1.com/mercedes/motorsport/story/209345.html


 勝てば自分たちのみを賛美し、負ければパートナーを批判して自分たちは被害者だと居直り、撤退するぞと喧伝する。そんなチームより、勝てない時期でも向上心を失わず、歯を食いしばって地道に努力を続けるチームの方が清々しいに決まっている。
 スポーツイベントに関わるのであれば、その動機がマーケティングであっても、姿勢はスポーツマンシップに則ったものでなければいけません。

 そのレッドブルと対極にいるようなチームが、"車椅子の闘将"フランク・ウィリアムズ率いるウィリアムズF1チームでしょうか。
 かつて「名門」として、フェラーリ、マクラーレンに並ぶトップチームであったウィリアムズ。彼らの長い長い低迷期は未だ終わっていません。


Williams Martini Racing FW37 / バルテリ・ボッタス
500mm(トリミング有)・ ISO100・F13・1/160


 レッドブルの低迷期などしょせんまだ2年目ですが、ウィリアムズは2004年以降、10年以上の長きにわたってずっと低迷してます。最後にコンストラクターズタイトルを取ってからと考えると、もう18年にもなります。
 資金繰りの悪化で撤退するんじゃないかと噂されたこともありましたが、どっこいいまだにずっとレースに挑戦し続けている。最近ではスポンサーをいくつも獲得するなど、むしろ財政的に余裕が出てそうな気配。
 相変わらず優勝からは見放されていますし(最後に優勝したのがパストール・マルドナードという事実が絶妙)、タイトル獲得なんて今はまだ無理としか言いようがありませんが、それでも2014年にはコンストラクターズ3位にまで挽回した。
 カスタマー待遇とはいえメルセデスパワーユニットを載せることができたから、という事実はあるにせよ、同条件のロータスやフォース・インディア、マクラーレンらが鳴かず飛ばずの成績の中、何度も表彰台に上ったことはやはり特筆されるべき。
 長い低迷期を過ごしている中でも、闘争心と情熱を失わなければ、これだけ奮闘できるんだという姿を、2014年のウィリアムズはF1ファンに見せてくれました。
 私自身がウィリアムズファンなので、贔屓目が入っていることは否定しませんが、少なくとも、後方集団で煮え湯を飲まされていた日々を耐え続け、再び表彰台争いをする位置まで挽回してきたことは間違いない。

 名門と呼ばれたチームが最下位争いを強いられる。これほど屈辱的なことはないでしょう。それは今年のマクラーレン・ホンダも同じ。
 しかし、彼らの名門たる理由はただ勝ってきたからということだけではなく、勝てなかった時でも、背を向けずに逆境をはね返してきたから。その歴史を知っているから、ファンは彼らを名門と呼ぶ。

 2010年から2013年までのレッドブルは強かった。F1の歴史上でも指折りの強さだったと言っていい。しかし、今はまだただそれだけのチームです。一時期勝っていただけのチーム。
 彼らが本当に素晴らしいチームだと言われるためには、今のこの逆境をはね返し、再び王者に返り咲く、そのプロセスが必要です。
 名門チームになれるかどうか。その資質があるかどうか。今問われているのはそういうこと。
 レッドブルにとって、F1はマーケティングの手段でしかないかもしれませんが……、でも、それでも、ジャガーを買収し、4年間の未勝利の時を過ごしながら、ついにはコンストラクターズを制覇したチームに、レースへの情熱が一片もないとは思えない。
 来年彼らがどのような位置にいるのかわかりませんが、深紅の雄牛がちゃんとまたサーキットで荒ぶっていることを、信じて待っていたいです。

 ……日本GPと関係ない話に終始してしまいましたが、とにかく本日はここまで。日本GPの続きはまた次回に。

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