いまごろ年末の格闘技イベントを振り返る


 初詣でたこ焼きを食べたら、あまりの熱さに口中をやけどしてしまった神居鈴です。新年になっても口腔粘膜の弱さは相変わらず。よく虫歯がないな、自分。



 さて、前回の予告通り、年末の二大格闘技イベントについて今頃書きましょう。遅筆にも程がある。



 まずは……ダメな方から行くか。もちろんDynamite! 何がダメって番組構成が酷すぎる。



 どう酷いかというと、試合を映さない。これでもかというほど映さない。何か信念でもあるのかというくらい映さない。

 開始から延々と続く煽りビデオ。しかも出来が悪い。

 確かに、あんまり格闘技を見ない人たち向けに選手の紹介はいるとは思う。思うけど、これはやり過ぎ。だって、同じビデオを何度も何度も何度も何度も何度も何度もやるんだもん。もういいっちゅーねん! と言うくらい繰り返す。それも、面白かったり興味深かったりすればまだしも、ひたすらつまんない。ただ映像をダダ流し。

 加えて、以前やった試合の再放送。これがまた多い。スキップで飛ばしまくったので(録画で見ていました)、何の試合をやっていたのかはよく覚えていないのですが、2~3本はフルで映していたはず。そんなの1分くらいのダイジェストで充分なのに、何でフルでやらにゃいかんのか。



 そして、景気よくカットされる当日の試合、試合、試合!



 煽りと再放送やる暇があったら、当日の試合を映してくださいぃいいいいいい!



 しかも、時間が足らないのならしも、ラストの方は映す試合が無くなって、結局当日の試合の再放送。何のためにカットしたんだっちゅーねん!



 だいたい試合の放送順がおかしい。メインであるはずの桜庭和志 vs 船木誠勝が、放送の中盤当たりに持ってこられてる。で、何がラストの放送になったかというと、宮田和幸 vs ヨアキム・ハンセン。そして、宮田ハンセン戦が終わると、当日の試合の再放送が延々と……。

 もう、やる気ないのか? と思えるような番組構成。酷い、酷すぎる。



 でもね、まだTBSだけで自滅してくれりゃいいですよ。泣きたくなるのは、Dynamite!の都合のせいで、やれんのか!の試合順がムリヤリ変更されたこと。



 何が起こったかというと、本来メインで行われるはずだった、エメリヤーエンコ・ヒョードル vs チェ・ホンマンの試合が、第六試合に変更されたのです。理由は、「Dynamite!で生放送したいから」。

 もうね……。いや、そりゃ生放送の方が、色々と臨場感は出ますよ? でもね、Dynamite!の主な視聴者層が、格闘技の試合のライブ性にこだわりますかね。

 むしろ、いきなり試合順を変更された、やれんのか!組が唖然とした事の方がでかいのでは。現地観戦組もテレビ組もね。

 秋山 vs 三崎戦が終わって、「よーし、次は桜井だ。いけいけー!」となってるところに、「試合順が変更になりました!」。おまけにメインは青木真也 vs チョン・ブギョン。締まらない……(試合内容は面白かったですが)。せめて、チョン・ブギョンがJ・Z・カルバンならまだ良かったんですけどね……、HERO'S王者だし。

 それに、このせいで煽りビデオの内容までおかしなことになってるもん。第六試合なのに「ファイナル・バトル」、メインイベントなのに「あと2試合」。もうグダグダ。



 で、上記のような最悪の番組構成に加え、間抜けなカードの目白押しと来る。武蔵 vs ベルナール・アッカを筆頭に、ボブ・サップ vs ボビー・オロゴン、ミノワマン vs ズール、所英男 vs 田村潔司など、皿でも投げつけてやろうかというような……。しかも、相変わらず武蔵は素人相手に苦戦してるし。どうしようもないな。



 しかし、そんな中でも光っているものはありました。それがK-1甲子園。この試みだけは良かったと思う。

 まだティーンズということで、試合運びなどは慣れていない部分が多いですが(老獪な子もいましたが)、子供らしい負けん気の強さなどは見ていて新鮮でした。それに将来のスター候補としても有望な子が多い。才賀紀左衛門君などはルックスも可愛いし、女の子に人気が出るんじゃないですかね。雄大君は無骨そうな所が良い感じです。彼は男性ファン向けでしょうか。久保賢司君も、守ってあげたくなるような所が女性ファンの琴線をくすぐるかも。

 格闘家としての伸びシロもたくさんあるでしょうし、ちゃんと指導してあげれば、いまよりもっとキック界が賑やかになるかもしれない。そう言う期待を抱かせるに足る四人の若者たちです。

 可能であれば、総合格闘技についてもこういった試みがあるといいのでは。レスリングや柔道からの転向が多かった頃に比べ、いまは最初から総合格闘技を目指している子たちも多いでしょう。そう言う子たちを発掘していけば、凄いダイヤモンドがいるかもしれません。まぁ、キックとは違って、総合格闘技はバックボーンの持つ意味が大きいから、そう簡単にはいかないものかも知れませんが……。




 さて、続いてはやれんのか!です。



 裏に回れば色々な政治的思惑が飛び交っていた本大会ですが、そういうのは一時忘れて内容に集中すれば、とても面白い興業でした。漂う緊張感と高揚感が作る濃密な時間、リングの上で繰り広げられる最高の試合、観客の熱狂。そのどれもが、全盛期のPRIDEの再現。



 まずOPイベントからして良かった。会場に響き渡る「PRIDE」のメロディ。そして、佐藤大輔の手によるハイセンスな煽りビデオ。

 地上派撤退以降、PRIDEとその周辺に対しては厳しいことばかり言っていましたが……、さすがに胸が熱くなりました。熱狂する観客の大声援も、それに花を添えていましたね。



 加えて、試合中に語られる高阪剛の解説がまたいい。難解になることなく、主要なところをピックアップしてくれるので、観ている側として非常にありがたかった。こちらが見逃していた攻防もきっちり言及してくれますし。さすがは世界のTKです。



 そして何より、思いの丈をぶつけるようにリングで輝いていた選手たち。「自分たちがこの空間を作っているんだ」という、その誇りすら感じられる試合がいくつも展開されていたように思います。

 「お客さん」のホンマンや秋山はともかく、川尻達也や三崎和雄なんかは、格別の想いがあったのではないでしょうか。



 これが、まだ先に続いていくシリーズ興業であれば、苦言を呈する箇所もあったかも知れません。でも、悲しいかなこれは一夜の夢――。

 そうであれば、最高の大会だったという評価がふさわしいでしょう。PRIDEの集大成として、良いイベントを観ることが出来ました。



 さて、全体の感想はここまでにして、年末のベストバウトについてですが……



 Dynamite!では、山本"KID"徳郁 vs ハニ・ヤヒーラ。

 やれんのか!では、……難しいところですが、石田光洋 vs ギルバート・メレンデス。



 この2カードが、私にとってのベストバウトでしょうか。



 どちらのカードも共通しているのは、「領域の奪い合い」。いかに相手の領域から逃れ、いかに自分の領域に引き込んでいくかという、この攻防が非常に面白かった。



 山本 vs ヤヒーラであれば、なんとか寝技、あるいは近距離での攻防に持ち込みたいヤヒーラに対し、徹底して中間距離からの制空権を渡さない山本。ローキックで牽制しつつ、近づいてくれば離れ、相手に隙が出来た瞬間に一気に詰めて、必殺の打撃を叩き込む(ほとんど立ち技ルールの戦い方ですが……)。ヤヒーラ側は、間合いの駆け引きや被弾覚悟の懐特攻などで、なんとか距離を詰めようと画策するものの、ことごとくかわされてしまう。この辺りの攻防は見てて熱かった。



 逆に、石田 vs メレンデスは、近距離~ゼロ距離での攻防に終始。打撃で活路を見いだしたいメレンデスを、石田が強引に組み付いてコントロール。そこから逃げたいメレンデスと、優位なポジションを渡そうとしない石田の駆け引きは、細かい技術応酬の宝庫でした。



 いずれの試合も、一瞬で流れが逆転する危険性を孕んだ、極めて濃密な試合空間。殺るか、殺られるか。文字通り手に汗握る勝負。



 そこにあるのは大味なド突き合いではない、研鑽と研究が生み出したハイレベルな技術。そして、その技術を支える、気の遠くなるような日々の修練。

 ただ有名なだけ、ただデカイだけ、ただ力が強いだけの有象無象には決して到達できない、本物の輝きがそこにはあった。それを観ることが出来たのが、本当に嬉しい。



 派手なKOや一本勝ちももちろん面白い。でも、格闘技の醍醐味は、そう言った「結果」ではなく、そこに至る「経過」にこそあるんだと思う。

 石田 vs メレンデスの試合を見ると、特にそう思います。15分に渡る技術と執念の応酬、これは結果としての勝敗以上に価値のある、とても贅沢な時間。

 こういう良い試合を、もっともっと地上波で放送してほしいし、もっともっと伝えてほしいと思う。

 お茶の間の人には判らない? そんなことはない。ちゃんとした技術を解説できる人がいれば、絶対に伝わります。だって、あのF1ですら、少しずつとはいえ新しいファンは着実に開拓されているんだから。

 難解用語と政治的な駆け引き、頻繁に変わるレギュレーション、超高度な技術情報と複雑怪奇な戦略が入り乱れるF1。しかし、そこには今宮純と川井一仁という、2人の熱血漢がいた。彼らがフォーミュラーの真髄を、情熱を持って伝えてきたからこそ、F1は日本に根付いた。

 逆に言えば、伝える人さえいれば、どれだけ難解な競技でも何とかなるんです。格闘技だけダメだなんてことは絶対ない。



 ――プロレス的なアングルとか、タレントや素人の試合とか、身体がやたらデカイとか、そんなのはもういい。そんなものたちに頼らなければいけないような、脆弱なジャンルではない。競技として成立し、技術論で盛り上がれ、ぱっと見でもちゃんと面白い。そんな魅力溢れるのスポーツのはずです。

 だから、格闘技関係者は、もっと自分たちのやっていることに誇りを持っていい。スポーツ紙の一面だって、いつかきっと飾れるはず。

 そこに至る道は長く、険しいものかもしれない。それでも、その先にこそ光があるのだとすれば、目指さない手はない。



 なんだか毎年同じようなことを思っている気もしますが……

 今一度、主催者を始めとする関係者には、そのことを振り返ってほしいと思うのです。



2008年1月6日




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