ドゥーチェ、アンチョビ! OVA「ガールズ&パンツァー これが本当のアンツィオ戦です!」感想

 久しぶりにアニメの話を。昔はよくレビューと称して色々と語りましたが、まぁ私もいい歳なので、深い話は若い子に任せて、気楽に感想など書いてみたいと思います。
 お題は「ガールズ&パンツァー これが本当のアンツィオ戦です!」。OVAとして制作されたものですが、先行して劇場公開したので昨日7月5日土曜日に観てきました。長編映画ではなく40分の短い時間でしたが、ガルパンらしく、迫力のある映像とテンポの良い展開で、濃密な映像空間が出来上がってましたね。



 メインとなる筋は、TV版第7話でたった数秒で結果のみ伝えられるという、やや気の毒な扱いだった「アンツィオ高校」との対戦。ノリと勢いだけは良い、というこれまた気の毒な評価の高校との対戦は、本当はいかなる激戦であったのか。はたしてネタ枠だったのか、それとも意外な強豪だったのか、ファンの間でも楽しみなお話でしたが、ようやくそれが明らかになったというところ。



 さてその内容ですが、「ノリと勢いだけ」との前評判通り、本当にノリと勢いだけの……、まぁ「よく一回戦勝てたね」というような、ネタ枠高校でした(笑)。練習試合を含めて、他の対戦では必ずといって良いほど窮地に追い込まれた大洗女子学園が、アンツィオ戦では一部の混乱を除いてほぼ一方的に相手を圧倒したわけですから、その地力に差があったことに疑いはない。
 しかし、だからといって見どころのない試合内容だったかといえば全くそんなことはなく、この頃わずか5両での戦闘を余儀なくされていた大洗女子に匹敵するほど非力な戦力でありながら、徹底的な機動力を中心とした陽動・攪乱作戦で戦うアンツィオ高校の奮闘は見応え抜群。多数用意された豆戦車C.V.L3/33 カルロ・ヴェローチェは、「これに倒されることはないだろうけど……」とわかってはいても、倒しても倒しても何度でも起き上がってきて追撃を加えてくるその姿は脅威そのもの。巧妙に配置したデコイと機動性の高い豆戦車群で撹乱し、主力のセモヴェンテとP40で相手車両を撃破する作戦も理に適っており、きちんと作戦を履行しさえすれば、少ないチャンスをものにして勝ち上がることも、確かにできるだろうと思われました。ええ、きちんと履行できさえすれば……。

 さて、冗談のようなミスから作戦が瓦解していく様は実際の映像を見ればいいとして、今回のOVAでは、TV版ではあまり目立たなかった人たちに焦点が当たっていたのが、ファンとしては嬉しかったですね。
 まずは、一年生集団であるウサギさんチームの頼れる車長・澤梓。現隊長・西住みほ卒業後の、次期隊長との呼び声高い彼女ではありますが、TVシリーズで彼女の活躍らしい活躍が描かれたのは決勝戦の対重戦車戦だけ(それでも車両の実力差を考えると凄いんですが)。それ以前は公式からですら「地味」と言われる影の薄さで、準決勝に至っては他メンバーに指示を出すどころか勝手に作戦を決められてしまい、全く出番がないという屈辱を味わうほどの薄幸ぶり。だからこそ決勝の、特に対ヤークトティーガー戦での見事な状況判断と決断力が、彼女の成長をよりいっそう引き立てることになったのですが、それを考慮してもなお、車長という戦車内を統括する役職からすると地味!と言わざるを得なかった。
 本作では、二回戦時点での彼女の実力が垣間見える場面があり、他メンバーに的確な指示を出していく、かっこいい車長としての澤梓が描かれます。宇津木優季に「西住隊長みた~い」と賞賛された時、「そうだろうそうだろう」と思わずにはいられませんでした。
「面倒見がよい」「慎重」と公式に評された澤車長の面目躍如。地味と言われようと影が薄かろうと、この時すでに、後の大成を予感させる能力の片鱗を見せていた。澤ちゃんファンには嬉しい場面でしたね。

 続いて、車長でありながら目立たなかった澤梓とは違い、チームリーダーでありながら車長ではなく装填手という地味な役割のせいか目立たなかった、カバさんチームのリーダー・カエサル。リーダーとは名ばかり、車長を務めていたエルヴィンの影に隠れて全然目立たないじゃないか!と不思議に思ったファンも多かったと思われますが、本作では彼女の意外な博識や努力家の面が描かれ、ようやく頼りになるリーダーのイメージが前面にでてきました。加えて、本作ではメインストーリーである対アンツィオ戦と並行し、大洗女子メンバーである彼女と、アンツィオ高校副隊長・カルパッチョとの友情物語も描かれるため、陰の主役と言っても良いくらいです。TV版で不遇だった分、破格の待遇でしたね。
 また、カエサルの活躍を通して、ガールズ&パンツァーシリーズ全体でもいまいち目立たなかった"装填手の重要性"も描かれています。指示を出す車長、状況把握の要である通信手、直接の手段で敵を撃破する砲手、車体を制御する操縦手、このあたりはわかりやすいとして、「弾を込める」という、ぱっと聞くとただの下っ端のような仕事の装填手は、その重要性や能力の良し悪しがわかりづらい。ガルパン全体でもトップクラスの人気を誇る秋山優花里でさえ、目立つところは戦車マニアなところや驚きの行動力が主であり、装填手としての仕事はほんの少ししか描かれない。
 しかし、実際の装填手は車体のメカニカルな部分をメンテナンスする役割もあるそうですし、そもそも砲弾をいかに早く装填するかというのは、手動で装填する必要のある戦車にとっては、攻撃面における扇の要と言ってもいいほどの重要な作業。たとえばTV版では、サンダースのフラッグ車M4A1内部での装填のもたつきから、砲弾を込るのに時間がかかることがいかに不利であるかが伺えます。逆に、プラウダ戦におけるカメさんチームにおいては、砲手から装填手に交代した河嶋桃が、装填時間わずか5秒程度という驚異の速度で、車長兼砲手である角谷杏の猛攻を支援していました。これがなかったら、プラウダ戦でのカメさんチームの快進撃はあり得なかったでしょうね。
 本作においては、カエサルが日々いかなる鍛錬をもって装填手としての能力を高めているか、そして、本戦において装填スピードがどれだけ戦闘にモノを言うのかといったことにスポットが当てられ、ファンにわかりやすい形で装填手の価値が示されます。
 地味ではあるかもしれないが、いなければ全体が成り立たない。まさに縁の下の力持ちという形容がぴったりの役職。重要な場面で自らの仕事をきっちりこなしてメンバーを支えるカエサルの姿は、やはりリーダーにふさわしい女の子であると確信できます。その演出はとても嬉しかったですね。

 そしてもう一つ描かれたのが、アヒルさんチームの活躍。実はこれが私が最も興奮したところでした(笑。
 アヒルさんチーム自体は、大会初戦サンダース戦でのフラッグ車発見や、準決勝プラウダ高校戦においての神がかりの回避能力など、要所で確実に見せ場を作っていたチームであり、目立たないなどということは全然ない、むしろ目立ちまくりのチームです。が、ただ一点、大洗女子チーム発足当初からのレギュラーでありながら、シリーズを通して一両も相手車両を撃破できなかったという、不名誉な成績の持ち主でもあった。華やかな容姿の砲手・佐々木あけびも、その煽りを食っていまいち目立たない。搭乗車両の八九式中戦車の火力が貧弱なため仕方なかったのですが、ファンからすると「一度でもいい、一両でもいい、アヒルさんチームに相手車両撃破という戦果を!」と思わずにいられなかった。
 その願いがようやく実ったのが本作。相手は装甲の薄い豆戦車という、自慢にはちょっとなりづらい戦力差ではあったものの、旺盛な機動力を活かして縦横無尽に駆けまわるカルロ・ヴェローチェに対し、神業の如き精度で砲撃を命中させる八九式の頼もしい姿には、思わずグッと来るものがありました。
 もともと練習風景などの描写から、あんこうチームの五十鈴華を抑えて大洗女子トップの命中精度ではないか?と目されていた佐々木あけび。八九式に火力がないせいで、もはやお飾りみたいな仕事量でしかなかったですが、今作においてようやく溜飲が下がったことでしょう。一気に四両撃破したのに加え、豆戦車群をフラッグ車から引き離していたおかげで、あんこうチームによる最後の詰めの場面で邪魔に入らせなかった、という側面もありましたしね。

 かように、本作ではこれまで目立たなかった部分にスポットライトが当たっていたおかげで、TVシリーズの雰囲気をそのまま継承しながらも新たな魅力をふんだんに盛り込んだ、非常に痛快な作品となっています。
 ようやくその活躍が描かれたアンツィオ高校隊長・アンチョビのキャラクターもとても可愛らしく、元気でポジティブ、かつ面倒見の良い爽やかな性格付けはガールズ&パンツァーの世界観にもぴったり。わずか40分という短い時間ではなく、もっともっと長い時間をかけて彼女の魅力を描いて欲しい、そんな思いを抱かされる、好感度の高いキャラクターです。
 逆に言えば、わずか40分程度の時間の中で、スタッフはアンツィオ高校メンバーの魅力をちゃんと描いてくれている、とも言える。これは、TVシリーズがそうであった通り、余分なものを極力削ぎ落したスマートかつシンプルな脚本と、その魅力を最大限に引き出す見事な演出のなせるわざ。誤解を恐れずにいえば、ガルパンのシナリオというのはかなり単純なものであり、近年の潮流である複雑怪奇な構成と脚本をベースにした重厚作品とは一線を画している。しかし、その割り切りによりリソースに余裕が産まれたせいか、演出面はこれでもかというほど力が入っており、個性豊かなキャラクターの魅力を時にさりげなく、時に大胆に描き出す。そして、ともすれば非現実的な戦車戦の様子を、有無を言わさぬ圧倒的な迫力と作品内リアリティをもって描写することにも成功し、ガールズ&パンツァーは他に類例を観ない、独特の存在感を持った作品へと昇華している。
 もしストーリーが難解な作品であったなら、リソースをそちらに取られて中途半端でみじめなアニメとなっていたことは間違いない。一見してシンプルなストーリーラインは、実は本作においてはこれ以上ない、ベストな選択肢であったことに気付かされます。
 ストーリーだけなら小説で良い、見た目の絵だけで良いなら漫画で良い、アニメがそれらに対してアドバンテージを持つならどこか? それは動画ならではの音と動きを伴った演出であり、ガルパンはそこに焦点を合わせて、着実に成果を積み上げた作品だと思います。
 本OVAにおいてもこの方向性は一切変わらず、明るく元気で脳天気なアンツィオ高校生徒の姿や、猛スピードで駆けまわる豆戦車の勇姿が実に活き活きと描かれる。時折、劇場版やOVAでトーンが変わり、明るかった作品を暗く描いてしまうケースを見かけますが、ガールズ&パンツァーにおいてはそういうことは一切なく、魅力的な部分はすべて継承し、その上でTV版では描かれなかった部分も描いている。非常に良い仕事であり、スタッフには喝采を送りたい。

 さてもう一つ、本来ならそこまで注目する必要のない箇所を一点取り上げたい。それは、物語の見せ場となるカバさんチーム三号突撃砲vsアンツィオ高校副隊長車セモヴェンテの対戦の開始当初、カエサルが発したある一言。「どこでもいいから当てろ!三突の主砲ならどこでも抜ける!」。
 このセリフ自体は、vsセモヴェンテにおける勝利条件を端的に表した一言に過ぎず、ストーリーの中に影響のあるようなものではないのですが、ただ、スポーツ観戦を趣味のひとつとする私にとっては、この一言には結構グッと来るものがありました。以下に少し説明します。
 選手同士の対戦が主となるスポーツを想定するとき、選手のタイプの分け方にはいくつかあるものの、たとえば次のような分類を考えることができる。すなわち、「全能力を平均的に伸ばしたトータルプレイヤー」と「ある方向性の能力のみ極端に伸ばした一点集中型プレイヤー」の二種類。打撃系の格闘技で言えば、パンチ、キック、ディフェンスといったすべてのスキルに秀でた選手と、とにかくパンチのスキルのみを磨きぬいたハードパンチャーがわかりやすい例と思います。キックボクシングの有名どころでは、前者は魔娑斗やバダ・ハリが、後者はマイティ・モーや初期の山本"KID"徳郁が挙げられるでしょう。
 選手としての力量やバランスといったものを考慮すると、より完成されたファイターは前者ということになります。実際、チャンピオンになる選手は殆どの場合トータルファイターであり、一点突破型のファイターは善戦こそするものの、最後には弱点を突かれて制圧されるというケースが多い。
 しかし、たとえ最後には力及ばないとしても、一点突破型の選手が見せる試合の迫力というのは、トータルプレイヤーにはない、鬼気迫るものがあることは確かです。「この一発を当てさえすれば!」「この右フックを叩き込めば!」「たった一撃で倒せるんだ!」、という一撃必殺の技を持つ者のみが醸し出す無類の圧力。不器用でも、不格好でも、泥臭かろうとなんだろうと、愚直なまでにただ一度のクリーンヒットを狙い続けるその姿勢は、観客の心をつかんで離さない。カエサルが叫んだ「三突の主砲なら!」には、そういった一撃必殺ファイターの姿が想起されて、思わず胸が熱くなったのです。
 回転砲塔を持たず、停止状態では攻撃範囲の極めて狭い三号突撃砲。相手のセモヴェンテも同じく回転砲塔を持たないタイプであり、両者の戦いは一撃必殺同士の、魂を込めた砲撃の応酬。この一戦が名勝負でないはずがない。その嚆矢となったカエサルのセリフは、やはり名台詞というにふさわしいと思うのです。

 わずか40分の上映時間に詰め込まれた数々のシーンは、ひとつも余さずガールズ&パンツァーの世界観。試合後に語り合うライバルたちの友情も含め、スポーツを通した清々しい物語の色彩は、素晴らしいの一言です。待たされた甲斐があったというもの。出来栄えに点数をつけるのはおこがましいですが、文句なしに満点と言って良いと思います。ドゥーチェ、アンチョビ!

 そして上映後のサプライズ、長編の劇場版制作中!の告知。まだまだガルパンの世界は終わらない。再び開催される聖グロリアーナとの一戦を楽しみに待ちたいところですね。

2014年7月6日

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