閑古鳥のなく頃に

「本当に儲かってるのか?」と思うようなお店ってよく見かけます。中核都市部ではまぁそう見かけないんですが、ベッドタウンなどのいわゆる衛生都市部、もしくは田舎では頻繁に見かけます。商店街なら多少わからないでもないですが、商店街ですらない場所にある、ぼろっちぃお店など見ると「大丈夫なの?」と思うことしばしば。誰が利用してるんですかね。

PENTAX K-5IIs + SIGMA 17-50mm F2.8 EX DC HSM

 というわけで、写真は見るからにボロっちぃおもちゃ屋さんです。上部の店名看板は見るからに褪せてますし、ドアにあしらった「いらっしゃいませ」の文字は「っ」が剥がれ落ちて「いら しゃいませ」になっている。直しなよ!と思わず言いたくなること請け合い。
 このお店、私が小学生の時には既にこの有様でした。「昔は小綺麗な店舗だったんだよ」なんてことは一切なく、本当に当時からこのさびれかげんだったんです。ろくに照明もきいてない店内は始終薄暗く、コンクリート打ちっぱなしの床は冷たい印象の上に埃っぽくて、おまけに店主は陰気なじいさん。ショーウィンドウに飾られたおもちゃの箱は日焼けて色があせている始末。なぜ潰れなかったのか、そしてなぜ今でも潰れていないのか、さっぱりわからない。
 そりゃね、私の子供時代はキン消しブーム、ラジコンブーム、ミニ四駆ブームなど、おもちゃ屋さんがよだれを垂らすブームが寄せては返す時代だった。初代ファミコンからリアルタイムでテレビゲームの進化を体験した世代のド真ん中でもあり、現代的な子供が没頭する趣味が次々に発生した時代だったので、おもちゃ屋さん的にも美味しい時代だったはず。それは否定しない。
 しかしちょうどその頃、このお店の目と鼻の先にもう一つ、それこそ「小綺麗な」という表現がピッタリのおもちゃ屋さんがもう一件あったんですね。
 店名は「ふじや」だったはずですが、ショーウィンドウに女の子が大好きなぬいぐるみを飾り、自動ドアに入ったすぐのところにファミコンソフトのケース、奥の方にはマニア心をくすぐる模型やらカードゲームやらを並べ、レジには若い女の子のアルバイトという、完璧な布陣で固めた……つまり、かこ玩具店では太刀打ちできそうにない、立派なおもちゃ屋さんだったんです。これは勝負にならない、いずれかこ玩具店はシャッターが降りたままになるだろうと、当時の子供達はみんな思っていたはず。
 ところが、事実としていまだに潰れず残っており、逆に、ふじやの方は私が高校生くらいの頃に潰れてしまった。これには驚きましたね。残った店舗は現在美容室になっていますが、かつてふじやで何があったのか、今となっては面影残る建物からすら窺い知ることはできません。
 これが、ふじやが潰れたというだけならわかる。どう繕ってみても所詮は衛星都市前のおもちゃ屋さん。郊外に巨大ショッピングモールができれば、そっちにお客さんは根こそぎかっさらわれますし、実際に駅前のお店の幾つかはそうやって消えていってしまった。主婦の大きな味方であったはずの、生鮮食品を扱うスーパーですら潰れてしまったんだから、その影響はとても大きかった。
 そんな逆風の中、周辺で残ったのは宝飾と時計を扱うお店が一件、メガネ屋さんが一件、飲み屋が一件、自転車屋さんが一件、喫茶店が数件、酒屋さんが一件……、つまり常連客を強力に囲い込んだ・囲い込めるお店ばかり。決して、おもちゃ屋さんなどという、数年で客がすっかり入れ替わるような店ではない。しかしかこ玩具店は残った。ふじやは潰れたのに、こっちは見事に今でも残っている。いったいどういう理由なんだろうと不思議に思うのは当然ですよね。
 もちろん、品揃えが大変にマニアックで、ここでしか手に入らないようなものがあるというならわかりますが、実際そんなことはない、普通の昔ながらのおもちゃ屋さん。そりゃまあ古いお店なので、もう生産中止になった品もあるのかもしれませんが、それにしたって、この不況の中をそんなことで乗りきれるものなんだろうか? そうは思えない。

 ちなみに、7~8年ほど前に一度だけ、このお店を尋ねたことがあります。その時買ったのは花札でしたが、店の中は……小学生の頃のままでしたねぇ……。薄暗くて、埃っぽくて、店番するのは陰気な老店主。唯一の違いは店先にあった「コスモス」という自販機がないだけで、店内に至っては商品のレイアウトすら全く変化のない、店名の通り過去からタイムスリップしてきたかのように当時のまま。もしかすると、あのお店だけ時間の流れが違うのかもしれない。そんな感覚にすらとらわれる、不思議な光景。諸行無常なんて言葉がとても陳腐に思えて、笑いがこみ上げてきたものです。

 でも、こういうお店がまだ残っているというのは、ある意味で幸せなことです。大きなショッピングモールの、整頓された店内では味わうことの出来ない、何か「いけないこと」のような匂い。子供の遊び道具の陰に紛れた悪戯な匂いは、たぶんこんな陰気なお店でしか嗅ぎ取れない。
 無菌培養されたようないまどきの現代っ子に、密かな毒を含んだ夢を見せられるのなら、そこにはとても大きな価値があると思うのです。

2014年6月29日

コメント

このブログの人気の投稿

フィットRS改造計画

大洗へ ~ガールズ&パンツァー聖地巡礼~ 戦車編Part 1

鈴鹿でSIGMA 150-600mm F5-6.3 DG OS HSM Contemporaryを使ってみる