DSEの疑惑と、PRIDEの試練


<フジテレビは5日、人気格闘技「PRIDE(プライド)」を主催するイベント会社との契約を解除し、番組の放送をすべて取りやめると発表した。10日に放送予定だった収録済み番組の放送も中止する。フジテレビ広報部は「放送を継続することが不適切な事象が、イベント会社内であったため。契約違反に該当するものだが、具体的な内容はコメントできない」としている。(以下略:毎日新聞)>



いやー…びっくりしましたね。青天の霹靂とはこういうことです。ライバルイベントK-1の、主にヘビー級イベントがファン不在の主催者運営を続けていくに比例してコンテンツ力が低下していく中、(相対的に)真剣勝負の世界を(相対的に)ファン主導で見せる手法で魅力を増し、一般への訴求力を高めていった…そのさなかのこのニュース。格闘技界、上半期最大のスキャンダルでしょう。

2chをはじめとしたネットBBSでもこの話題で持ちきりで、事実関係がはっきりしない中、憶測予測誹謗中傷の類が跳梁跋扈している模様です。

このフジの発表が…多くの予測で話されている通り"や"の付く"サンマ傷の集団"が原因としてあるならば…そうでなくとも、その疑惑を払拭できなく、あたかも真実のように語られることを抑制できなければ、かつて森下社長の自殺スキャンダルですら乗り切ったPRIDEの、これは最大の試練…いや、もしかすると致命傷にすらなるかもしれません。

「地上波で観られなくても、スカパーで観られるからいいよ」という楽観視の声もありますが、事態はそんな単純なものではないと考えます。「ブランドイメージの低下」が企業に与える打撃は、地上波が斬られるだけですむような、そんな軽いものではありません。あの、明治から連綿と続いた大財閥、三菱グループ傘下の三菱自動車工業ですら、そのイメージと信頼の低下が、同社をほぼ死に体にまで追い込んだことを忘れてはいけません。



さしあたって最大の問題は資金繰り。つまり、スポンサーです。これはもう相当厳しくなります。誰が好き好んで、"や"の付く自由業の方と繋がりのある(との疑惑のある)イベントにお金を払うでしょうか? 下手をすれば、自分たちに矛先が向きかねません。CM効果を狙ってスポンサードしているのに、"や"の付くサングラス集団と関係しているんじゃないかと疑われた日には、目も当てられません。

そして当然、スポンサーが付かなければ、組織の運営は不可能になります。観客が支払うチケット代では、到底まかなうことは出来ません。例えば、PRIDEの本拠地であるさいたまスーパーアリーナ(以下たまアリ)。4万5千人強を収容する大会場ですが、一人頭平均2万円を支払って会場入りすると仮定しましょう。単純計算で9億円。おお、すごい金額だ、と一瞬勘違いしそうですが、ここから必要経費を引かなければいけません。

さしあたって、たまアリを使用するGPシリーズの1大会辺りの経費をテキトーに予想してみましょう。GPシリーズは年3回の実施ですので、前提条件として4ヶ月の準備期間を要するものとします。また、観客は満員になっていると仮定します。また、期間中のグッズ販売の利益を、ちょっと多めに5000万円として、これを先にプラスしておきます。

まず、選手へのファイトマネー。1興行辺り10試合と見積もっても、20人の選手がいます。GPシリーズですから、おのずと人気選手ばかりです。一人頭1000万円くらいとして、20人で2億円。スター選手ならもっとかかりますが、それは考慮しないことにしましょう。それから、会場のレンタル料金。たまアリのオフィシャルサイトによると、スタジアム使用料金は、本開催と設営・撤去・リハーサル合わせて、約1500万円。加えて、宣伝費。これはどのくらいになるか知りませんが、全国規模で宣伝するとなれば、1億2億で済むとは思えません。例えば、新聞のテレビ欄下に広告を載せる場合、1日あたり1500万円ほどかかります。全国紙の朝日、読売、毎日、日経、産経全部に載せるとすると、1日で7500万円。前提条件で準備期間4ヶ月としてありますので、月一で広告を載せた場合、これだけで3億円です。プラス雑誌への広告費、ポスター、テレビCM料金、いったいいくらかかることやら。控えめに見積もっても、これだけで5億は飛びそうです。それから、人件費があります。スタッフの人件費ですね。何人いるか知りませんが、もぎりや警備員を含めた会場スタッフ200人として、彼らに1日1万円で200万円。その他開催前、開催後に必要なイベント処理の人数100人として、彼らに月当たり50万円のギャラを払うとしましょう。前提条件4ヶ月ですから、50万×100×4で2億円になりますね。

ここまでで

ファイトマネー:2億

会場費用:1500万

広告費:5億

その他人件費:2億200万

すでに9億円以上の経費がかかっています。当座これだけで興行を打つとして、頭の金額が9億5000万円ですから、最終利益が3300万円。しかし、当然自分たちの会社の運営費もありますから、この程度は飛びますでしょうね。普通に。

ものの見事に破綻です。また、上記の金額は、適当とはいえ少なく見積もっていますから、これ以上かかる可能性は高いですし、前提条件が「観客満員」であるため、今後のブランドイメージの低下による客足の遠のきを見据えた場合、資金である9億は8億、7億、あるいは6億にまで低下するでしょう。これでは満足な興行は出来るはずもありません。

スポンサーが必要なのはそういう理由からです。彼らが出す資金がなければ、1大会だってまともに運営なんて出来ません。それでもやろうとすれば、規模の縮小しかもう手はないのです。



上記を考えてみれば、スカパーがあるからどうのという楽観視なんて到底出来ません。PPVの収益全額がDSEのものになるわけでなし、また、スカパーの収益程度がDSEを支える屋台骨になるとは思えません。



最初に、致命傷になる可能性がある、と書いたのはそういう理由からです。無論、それは"や"の付くお兄さんたちとの関連性を否定できなかった場合の、さらに『最悪の事態』を想定したものであり、実際にスポンサーがまったく付かなくなるという可能性はそれほど高くないとも考えられます。"や"の付くこわもてさんたちと最初から繋がりがなければ問題ないですし、万一あったとしても、それを感じさせない営業力を発揮すれば何とかならないこともないでしょう。



正念場です。DSEにとって未曾有の正念場です。ぜひDSEには、この危機を乗り越えてもらいたい。無論、不正があるならば、それは浄化されなければいけない。しかし、三菱自動車が自らを立て直すよう、社員一丸となって努力しているのと同様、DSEにしても、不正は不正として是正し、今後の自浄に懸命に努めてもらいたい。間違っても倒れてはいけません。



いち格闘技ファンとして、PRIDEに潰れられるのは本当に痛い。立ち技イベントのK-1と、総合格闘技のPRIDE。このふたつは、互いを最大のライバルとして、切磋琢磨して日本の格闘技価値を高めていかなければならない、比翼の鳥です。総合には他に修斗やHERO'Sがあるとはいえ、あまりにもスポーツに徹している修斗はメディア展開に期待できませんし(多分、主催者にその気がない)、HERO'SはK-1を主催する FEGが親玉ですから、ライバル関係にはなりえません。それどころか、現在のK-1の迷走ぶりを鑑みれば、HERO'Sの今後もどうなるかわかったものではありません。仮に潰れたPRIDEからエメリヤーエンコ・ヒョードルやアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラをはじめとするスター選手たちを吸収したとして、彼ら全員を活躍させるだけのイベント数を打てる保証も、養える企業体力もおそらくないでしょう。



PRIDEが倒れるということは、世界トップクラスのグラップラーやストライカーが路頭に迷うことを意味し、つまり、ファンが最も望むハイレベルな技の攻防や心のぶつけあい……格闘技を観戦するという喜びが失われてしまうことと同義なのです。



事態がどう推移するのか、いちファンである私に確たる予測が打てるわけではありません。前述した「最悪の予想」だって、素人の妄想・妄言の類を出るものではないのですから。

今はただ、ことが無事に収束してくれることを願うばかりです。



2006年6月7日




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