ある日の100円玉


目の前に積まれている仕事を片付ける日々。社会人ってそういうもの。

余計なことを考えると仕事がはかどらない。仕事がはかどらないと休みがもらえない。

だから、とにかく意識を集中する。自分にできる最高の仕事をしよう。

仕事が終わったらお酒を飲もう。お給料をもらったら、ちょっとだけ奮発してシャンパン飲んで。

休みの日にしっかり充電したら、また月曜日から仕事だ。そんな日々。



ある日、財布の中身を数えてみた。

冷たい飲み物がほしかったから、100円玉と10円玉が何枚あるかを数えてみた。

1枚、2枚、うん、買える。さて、何を飲もうかな。烏龍茶? コーラ?



ふと、100円玉が目に付いた。ぴかぴかの100円玉。

新しいコインかな? 裏面を見ると、平成17年。

へえ、2年経っててもぴかぴかだね。

今年の硬貨はどんなかな? 今度見つけたら確かめてみようかな。



そういえば、子供の頃は綺麗な硬貨が嬉しくて、よく集めてたっけ。

今年の10円玉、去年の500円玉、自分が生まれた年のコインも並べたり。

あのたくさんのコインはどこにやったっけ? 使っちゃったかな。

こんな感じの綺麗な100円玉。いっぱい持ってたのに。

光を反射して、銀色の硬貨。

斜めから見てみたり、机の上で回してみたり、好きだったのに。



…いつからだろう、ぴかぴかのコインが目に入らなくなったのは。



5年前? 10年前? もっと前?



その時――

空を覆う木々の隙間から光が差すように、理解した。



ああ、足りなかったのはこれなんだ。



どんなに小さなことにも、世界のすべてが宿る。

開いた窓から香る風、傘をたたく雨の音、錆びて音の鳴るドアノブ、なくした野球ボール、そっと忍び足の階段、揺れるバスのエンジン、日記帳の誤字、ノイズ交じりのラジオ、ぴかぴかの100円玉――、どんなことにも意味があり、そしてたまらなく愛しい。



ずっと忘れていた、そのこと。



真っ直ぐで平坦な道にも、少し目を向ければ白い花。

ほんのちょっとでいい、毎日ひとつずつでも、心に花を咲かせよう。

そんなことを思った日。



100円玉は、まだぴかぴかに光ってる。



――2007年6月21日




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