ルーマニアからF1へ

 マルシャ、およびケーターハムが破産手続きに入ったというニュースはご承知の通り。アメリカGPを欠場し、今後の2戦(ブラジル、アブダビ)も無理でしょう。当ブログでも危惧していましたが、やはり最小規模のテールエンダーにとってF1チームの運営はあまりにハードルが高かったようです。

鈴鹿サーキットにて
ケーターハムに悩まされた小林可夢偉
でもケーターハムがいなかったら可夢偉もまたこの場所にいなかった
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 これにより、アメリカGPのエントリーは2005年モナコGP以来の18台。少なくとも20台以上の参戦を前提とした現在の予選方式を変更せざるを得ず、ブラジル、アブダビでも同様の措置が取られるでしょう。



 本来の協定によると、エントリーが20台を割り込んだ場合は、一部のチームがサードカーを走らせるということになっていますが、いくつかの事情により今季中のサードカー出走は実現しません。

出走台数減少でも今季中のサードカー導入はなし
http://as-web.jp/news/info.php?c_id=1&no=60913

アメリカGPの予選ルールが変更に。Q1、Q2で4台ずつが脱落
http://www.topnews.jp/2014/11/01/news/f1/118742.html

 問題なのは今季ではなく来季の話で、冒頭のマルシャ、ケーターハムに買い手がつかない場合、来季のグリッドに並ぶことができなくなりますから、どうやっても一部のチームは3台エントリーということになります。また、アメリカGP開幕前に囁かれていた下位チームのボイコットの話も暗い影を落とします。実際にはちゃんと出走していたとはいえ、ザウバー、フォース・インディア、ロータスの財政事情も深刻であり、いいかげん忍耐にも限界が訪れて不思議はないでしょう。

怒りの小規模チーム、アメリカGPボイコットも辞さず
http://www.topnews.jp/2014/11/01/news/f1/118778.html

 ペイドライバーの持参金は時に数十億にのぼるとはいえ、そんなお金はあっという間に消し飛んでしまうことは、当ブログでも以前に言及したとおり。コスト削減案がいっこうに固まらない、進まない、そんな状況では低予算チームの運営なんて無理なのです。
 F1は取り巻く状況に比してコストが高騰しすぎた。もはやタバコスポンサーが許されていた頃のような、湯水のように札束を使えるような状況ではありません。
 「貧乏チームなんてなくなっていい、お金持ちのワークスさえいればいいじゃないか」なんて考える人は、かつてトヨタ、ホンダ、BMWがリーマン・ショックのあおりを受けて撤退してしまったことを思い出して下さい。どんなにカネを持ってそうなチームでも、取り巻く状況如何によって簡単に撤退してしまいます。「モータースポーツへの愛が云々」なんて生ぬるいことは言っていられないのがビジネスの世界。ホンダはようやく2015年からF1に戻ってきますが、トヨタとBMWは相変わらず距離をおいたままです。

 ともかくボイコットについて、F1の実質的なドンであるバーニー・エクレストンは、かろうじて強気な姿勢を見せていはいるものの、さすがにいろいろ堪えるものがあったのか、やや態度に軟化したところが……、いえ、普段の彼からするとかなりの方向転換を見せています。

エクレストン、F1危機回避に本腰
http://www.topnews.jp/2014/11/02/news/f1/teams/ferrari/118871.html

「問題は、あまりに多額の金が誤って分配されていることだ。おそらく私のミスだな。だが、世間で取り交わされる数多くの合意と同様、当時はいい考えに思えたのだ」
(中略)
「おそらく他に方法はない」と話すエクレストンだが、ここでいきなり、一チーム三台体制は決していい考えではないと方向転換をしてみせた。
「あれはまずい」と話すエクレストン。「(一チーム三台体制の実現阻止に向けて)何とかしなくては」


 まず、エクレストンが自身のミスを認めることが驚愕の上、これまでさんざん推してきた3台エントリーを否定するという、明日は雨どころか雹でも降るんじゃないかという物凄い手のひら返し(まぁ特に何も降りませんでしたが)。脳内でどんなやりとりがなされたのか知りませんが、あまり無理すると血管切れますよと思わず心配したくなります。いえ、私にとっては願ったりの話ですけども(3台エントリーの否定が、ですよ)。

 まぁでも、エクレストンが手のひらを返したところで、来季のチームエントリーが10チームに満たなければ、結局のところどこかは3台出走しなければいけません。FOMが各地のレース主催者と取り交わしている契約では、最低20台のエントリーを保証すると書かれている……と言われており(これについては16台である、という説もあるようですが)、ザウバー他が踏みとどまったとしても、マルシャ、ケーターハムがこの状況では前途は暗いと言わざるをえない。フェラーリのサテライトチームとして参戦を準備しているハースF1チームも2016年度からのエントリーであり、2015年度はやはり1チームどうしても足りません。

GP直送:3台エントリー実現のデッドラインは?
http://as-web.jp/news/info.php?c_id=1&no=60233

ハース、2016年に『ハースF1チーム』のチーム名称でF1参戦
http://f1-gate.com/haas/f1_24863.html

 しかし、ここにきてにわかに気になってくるのが、ハースF1チームと並び、かねてより参戦を計画していたフォルツァ・ロッサのF1プロジェクトです。
 ルーマニアのフェラーリ販売代理店でもあるフォルツァ・ロッサは、元HRT代表コリン・コレスの指揮のもと参戦を計画しているとされており、今年6月に「FIAからの参戦承認の回答を待つ」と報道された以降は、すっかりニュースが途絶えていました。
 それが、既存2チームの破産手続という状況の中、2015年の参戦に向けて承認が間近となっているのではないか――という噂が立ち上がってきており、実現すればエントリーの最低ラインとなる20台は確保できるという計算になります。これに2016年度からハースF1チームが加わると、現在と同じく11チーム22台出走となり、まぁまぁ寂しくはなくなることでしょう。もちろん、他の下位チームが脱落しなければ、ですが。

フォルツァ・ロッサのF1参戦承認間近か: ルーマニアから新チーム誕生なるか
http://blog.livedoor.jp/markzu/archives/51963017.html

いまだFIA承認待ち、フォルツァ・ロッサ
http://www.topnews.jp/2014/11/01/news/f1/teams/caterhamf1/118761.html

 とはいえ記事中にもある通り、参戦の承認が降りたからといって準備期間は限られており、新興チームが2015年の開幕グリッドにマシンを並べられるかというと、相当厳しいことには疑いがない。マルシャを買収して施設や機材を整えるのがベターな選択のようですが、ルノー子会社のダチアが関与しているという話もあり、今後の動きに注視すべきでしょう。泰山鳴動して鼠一匹、結局参戦は無理でした、なんてこともあるわけで。
 でも、これまでハースF1チームの影で余り注目されてこなかった同プロジェクトが、しばらくのあいだF1のオフシーズンを盛り上げてくれることは確実。参戦するか、しないのか、できるのか、できないのか。格闘技ファンあたりだと「やれんのか!」なんて言いたくなる、そんな状況。

 こうなると気になるのはバーニー・エクレストンの動向で、先に引用した記事中にあるように「何とかしなくては」と言うからには、フォルツァ・ロッサの参戦に向けて強力に交渉を始める可能性が考えられる。現実に2チームが消滅し、下位チームが反旗を翻しつつある中、どうやら尻に火が付いたらしいバーニーがどのような手を打ってくるか、これは見ものといえるでしょう。
 もしバーニーの尽力のすえ分配金の不備が正され、コスト削減についてメルセデス他の同意が得られれば、F1はようやく各チームが健全なビジネスモデルを構築できるようになる。あるいはそのための道筋をつけることができる。
 そうなれば、今は撤退してしまったBMWやフォード、トヨタといった自動車メーカーも、またF1に興味を示すようになるかもしれない。あるいは、かつて存在したプライベーターがまた復活するかもしれない。そこまでいって、やっとF1は夢を見る場として機能し始める。それこそ、スーパーフォーミュラの参戦チームがF1にステップアップし……いや、いくらなんでもそれはないとしても、今よりずっと愉しみの増えるF1になると期待して良いと思います。

 F1はスポーツであると同時に興行ですが、興行であると同時にスポーツであると言い換えることも可能。強豪チーム、中堅チーム、弱小チーム、三拍子揃ってスポーツイベントは盛り上がる。そのために、低予算チームに対する配慮は常に必要なのだと、私はそう思っています。
 何も優勝争いだけがスポーツ観戦の醍醐味じゃない。勝つか負けるかだけを論じるのは、それはスポーツを観ているのではなくリザルトを見ているだけでしょう。
 レースの上位結果だけではなく、下位も含めた全体の動向とそこに展開するドラマを楽しむ。ここに至って、ようやくスポーツ観戦は立体化する。それはどんなスポーツでも同じはずです。下位チームが安心して最下位争いをしてくれるF1になることを、今は願ってやみません。

 まずはルーマニアからF1へ参戦を画策するフォルツァ・ロッサが、今後どのようにF1に影響を与えるか。楽しみに見ていこうと思います。

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