新車購入記

 私が初めて買った車は、初代インテグラ・タイプRのセダン型という、ちょっと珍しい車でした。
 これは中古で買ったものでした。型式はDB8。B18C型VTECエンジンを積んだ、インテグラのホットモデル。シルバーのボディに、前のオーナーさんが履かせていったADVANのアルミホイールがよく映えて、峠道などではとてもかっこよかった。ドライビングも、乱暴とも言えるほど回頭性が良く、大した腕でもない運転手を"その気"にさせるには充分すぎるほど、元気な車でしたね。
 しかし、当時はただのフリーターで予算が足りなかったこともあり、あまり状態のよいものが買えず、2年ほど経過するとそこかしこに不具合が出てきてしまいました。吼えるように回るVTECエンジンや、暴れ馬のような回頭性はたまらない魅力だったものの、メンテにかかるお金がバカにならないため、泣く泣く乗り換えることに。



 どの車に乗り換えるかは迷いましたが、色々と検討した結果、インプレッサWRXワゴンに。主な理由は、水平対向ターボエンジンのフィーリングを、存分に味わってみたかったこと。ラリーで鍛えられた、日本トップクラスの実力には、とても興味がありましたし、また、ハッチバックのスポーツカーの選択肢があまりなかったことも、消極的な理由としてはあります。
 この時には既に就職していて、ある程度まとまったお金もあったので、インプレッサくんは新車で乗ることができましたが、職場の上司から「安く買えるよ」と勧められたため、残価設定ローンを組むことに。諸経費込みで300万円弱にもなる車だったので、まぁこの判断も間違いではなかったかなと思っています。実際、月々の支払は楽でしたし。
 で、乗り始めると、すぐにポテンシャルの高さがわかりました。エンジンはトルクの塊で、加速性能はシートに押し付けられるような迫力。AWDのトラクションはホイールスピンなどとは無縁で、切れば切っただけ曲がっていくハンドリングは文字通りのオン・ザ・レール。ひとたび誰もいない峠道を飛ばせば、空恐ろしいような平均速度で駆け抜けることができました。
 STIでこそなかったものの、ラリーで猛威をふるうスバルの底力を思い知らされるに充分。なぜインプレッサが、いわゆる「走り屋」と呼ばれる人々に支持されるのか、この車自体が誰よりも雄弁にその理由を語っていましたね。
 そんなインプレッサくんとの付き合いも5年が経過。まだまだ車体は「これからだよ!」というほど快調で、トラブルフリーな健康優良児もいいところでしたが、ある理由から買い替えを検討することになります。
 理由とはもちろん、残価設定ローンの満期が近づいていたから。5年目の車検時に、「残価を支払って買取」「再度残価設定してローンを組む」「スバルに返却」の三択から選ばなくてはなりません。
 この選択にはかなり迷いました。
 例えば買い換えを検討した場合、今までこれほどの車に乗っていたわけだから、あまり貧相な車には乗りたくはない。とはいえ、インプレッサほどの性能を持った車を買うとなると、当然価格が高い。
 また残価設定ローンでも組めば話は別ですが、正直それは気が進みませんでした。このシステムは高い車を気軽に乗れるというメリットはありますが、一年の走行距離に制限が設けられていたり、ボディの傷の状態如何によっては返却時にもお金がかかったりなどの縛りがあります。そのまま買い取ってしまえば問題ないですが、それなら最初から通常のローンで買った方が気分的にも良い。とはいえ通常のローンだと、当然のことながら月々の返済額は高くなる。買い替えはこの辺りがハードルになりました。
 かといって、今の車を買い取って乗り続けるというのも、ちょっとためらわれる。どちらか選ぶなら、乗り換えしたいというのが本音。
 もちろん、インプレッサくんの性能に不満があったわけではありません。先にも書いたとおり、素晴らしいポテンシャルを秘めた車です。日本では間違いなくトップクラスだし、世界の強豪とも渡り合える車。これほどのマシンはそうそう他にはないです。
 ただ、あまりにも高性能過ぎて手に余った。前に乗っていたインテRさんも相当なハイスペックマシンでしたが、あれは元来じゃじゃ馬な性格だったので、まだ「自分で運転している」という実感に浸れた。しかし、インプレッサくんの方は、ドライバーのミスも車の方で吸収してしまうほどなので、操っているというより乗せられているという感覚すら覚えるほど。
 それは、より「ジェントルだ」と言えるかもしれません。有り余るパワーをAWDで路面に伝える乗り味も、インプレッサという車のイメージに反して、重厚な雰囲気すら漂わせます。車自体の完成度は極めて高い。
 しかし、愛車のキャリアをインテRで始めた身としては、どっしりパワフルな走りよりも、軽快なフィーリングの方が好みだったりします。仮にインプレッサ君をボクシングで言うウェルター級くらいとするなら、インテRさんはライト級くらいのイメージでしょうか。
 どっちの方がいい車か、なんてという比較をするつもりはありません。というか、車自体の完成度はインプレッサの方が上だと思う。でも単純に好みの問題として、自分には軽量級の方が性にあっている。
 そんなわけで、買い取るか買い替えか、昨年10月くらいからずっと悩んでいましたが、年も明けた頃になると、どうにも「もっと軽いのに乗りたい」という欲求が抑えられなくなってきました。
 5年もインプレッサくんと付き合ってきて、思い出もたくさんあるけれど、ひとまずお別れして新しいのに乗りたいと。
 とはいえ、じゃあ何に乗るのか? と考えると、これまた悩みどころが数多い。
 前にもblogで書いたとおり、乗ってみたい車、試してみたい車は数多くある。試乗するだけならともかく、一生の内に全てを所有して乗り切るのは不可能。あの中からどれを選んで買うべきか。
 これを解決するため、今回選択するにあたって、次のような条件を立てました。
 ・今の車より小さいこと
 ・今の車より軽いこと
 ・できればNAまたはハイブリッドエンジンであること
 ・排気量2000cc以下であること
 ・ハンドリングが軽快なこと
 ・MT車であること
 ・2WDであること
 ・総額で200万円前後であること
 ・向こう10年乗れること
 ・できれば新車か新古車で
 小さくて軽くて元気な車。自分にとっての"ファン・トゥ・ドライブ"とは何か、と考えた結果、そこに行き着きました。絶対的な速さはなくてもいいから、フットワークは小気味よく。
 エンジンも、ターボよりNAの方がやっぱり好きです。パワーよりフィール。軽く回るエンジンのほうが気持ちいい。軽自動車だと660ccしかないのでターボでも仕方ないですが、1000cc超の車ならNAの方が良いですね。
 この条件で取捨選択していって、最後まで残ったのが次の3台でした。
 スズキ・スイフトXL
 ホンダ・フィットRS
 ミニ・クーパー(MC前)
 インプレッサ君は言うに及ばず、インテRさんと比べてもさらに軽い。フェザー級とかバンタム級とかそのあたり(軽スポーツはフライ級かな)。
 まずミニ・クーパーですが、新車で買うと予算オーバーなので、BMWミニのマイナーチェンジ前を想定。中古車になってしまいますが、ミニはずっと好きだったので、ここだけ妥協することに。
 見るからに小さく、車重はやや重いですがエンジンはそこそこだし、とても楽しく走れそう。それに何より見た目が可愛い。このエクステリアは何度見てもため息が出るくらいに良いです。これに匹敵するのは、フィアット・500とか、あるいはダイハツ・コペン、日産・マーチ(K12型)くらいしか思い浮かばない。日本車でも欧州車でも、滅多に見かけない可愛さだと思う。
 インテリアも、やたらでかいメーターが目立ちますが、全体的に上手くまとめていてセンスが良いです。後部座席は狭いの一言だし荷物も大して積めませんが、そういう欠点を補って余りある、魅力的なデザイン。
 なので積極的に玉を探しました。で、色々ディーラーを回っていた時に、2005年式の低走行車で状態もそこそこ良いものを紹介してもらえました。価格も予算の範囲内だったし、かなり有力な候補として最後まで残りました。
 が、ネックだったのが二つ。
 まずひとつは年式。2005年式を今後10年乗れるかどうかがやや不安。きちんとメンテしながら乗れば問題ないかとは思うんですが、それでも10年後には16年落ちの型に。今どきの欧州車はそうそう壊れないそうですが、それでも……。
 そしてもうひとつは、試乗させてもらえなかったこと。保険が付いてないからという理由で、それ自体は仕方ないのですが、やはり中古車を買うに当たって試乗もできないとなると厳しい。中古車というとインテRさんを思い出しますが、あれでけっこう痛い目を見ているので、ここは慎重にならざるを得ない。正規ディーラーなのでよっぽど大丈夫かとは思いますが、それでも試乗できないのは不安です。
 じゃあ、これ以外の試乗できるミニを探すか?となると、今度はなかなか良いのが見当たらない。
 こういう理由から、あと一歩のところで決定打がない感じ。
 次にスイフト。これは「現行モデルにはスイフトスポーツがない」という、かなり痛いハンデが最初からありました。今秋くらいに出るようですが、それまで待ってられません。今の車の満期は2月末なんだから。
 でも、スポーツでなくとも、スイフトの性能は高い。試乗すると、この手のコンパクトカーの割に硬い足回りで、コツコツと路面の状況を伝えながら、軽快かつしなやかにコーナリングしてくれます。1200ccのエンジンは、パワーこそ大したことないですが、なかなか元気よく回ってくれる。高回転域になるとさすがに唸りが大きいですが、"頑張ってる感"みたいなものは伝わってきます。日常でも峠走行でも、楽しく走れそうです。
 エクステリアについても、やや野暮ったい気もしますが、ツリ目の割に愛嬌のある顔で親しみやすい。
 インテリアについては、際立ったところはないですが、実用性高く落ち着いた感じのもの。タコメーターの配置が三眼の左側なのが気に入らないですが、スポーツモデルじゃないから仕方ないかな。後部座席の居住性は見た目ほどには良くないですが、まぁ、ほとんどの場合一人か二人で乗るだけなので問題ないです。
 予算的にも、三車の中で一番安い。ナビとかアルミペダルとか付けても160万程度に収まってしまう。1200ccクラスなので安いのも当たり前ですが、これだけのドライブフィールでこの値段ならバーゲンセールかも。
 とはいえ、魅力的に映れば映るほど、これでスポーツモデルがエントリされていれば……と思います。あと、カラーバリエーションはもうちょっと増やして欲しいかも。前のモデルにあった黄色とか可愛かったのに、あんまり売れなかったのかな。
 最後にフィットRS。マイナーチェンジ前は、RSとは名ばかりのダルいモデルだったようですが、最近のテコ入れでスポーティに振ってきたとのこと。もともとホンダ党だし、小さくて元気がいい車となると、フィットは外せないかなと思う。
 エクステリアはちょっと攻撃的に過ぎるような気がします。なんだか「ニヤッ」と笑っているかのようなフェイス。愛嬌……も、あんまりないかな。ノーマルフィットの方がスマートでかっこいいです。カラーバリエーションも乏しい。フィットシリーズ全体ではたくさんあるのに、それぞれのモデルで選べるカラーが少ないのが残念。
 インテリアは、小洒落た感じにまとまっていて、良い感じです。スイフトと同じくタコメーターが三眼の中心にないのは残念ですが、これもまぁ仕方ないのかな。オレンジに光るメーターで、視認性も高そうだし。
 ただシートについては、こいつまでオレンジ色にしなくても……と思います。ブラックが選べればよかったのに。あるいはせめて赤とか。さすがにオレンジは目に痛すぎます。まぁシートの色なんか座ってる時は見てないですけども。
 居住性については抜群です。このクラスでは無敵だと思う。荷物もやたらたくさん入りそう。
 その他、次のような車を検討してました。脱落した理由を添えて列挙。
 スズキ・スイフトスポーツ ……低走行車が見当たらない。あっても色が好みでない等
 フィアット・500 1.2 SPORT ……予算オーバー
 ホンダ・CR-Z ……予算オーバー
 ホンダ・フィットハイブリッド ……MTモデルがない
 ダイハツ・コペン ……今後10年乗れるかと考えるとちょっと厳しい気がする。
 三菱・コルト ラリーアート version-R ……予算オーバー
 スズキ・ジムニー ……スタイルは好みだけど、乗る本人がオフロード志向でない。
 こういった検討を重ねに重ね、様々なディーラーに行っては試乗させてもらったり見積もりをもらったりしながら、3ヶ月ほどずっと悩み続けました。
 その結果、最後に残った一台は、ホンダ・フィットRS。


 ベストセラー車フィット2代目のホットモデル、そのマイナーチェンジ版です。
 スイフトもミニも、フィットに劣っていたわけではない。スイフトについては、走りを重視する人にとっては、現在考えうる最良の国産コンパクトカーだと思うし、ミニにしても、世界トップクラスのプレミアム・コンパクト。
 この2台でなく、フィットを選んだ主な理由は2つ。
 一つには、試乗してみたフィーリングが予想以上に良かったこと。軽く回るエンジンは、SOHCながらホンダスポーツらしい元気さがありますし、1t程度のボディを楽に引っ張ってくれます。ステアフィールがやや軽すぎる気もしますが、その代わりにシフトフィールの方はコクコクと短めで上品。この手のコンパクトとしては足回りが非常識に硬く、操舵はきびきびスイスイ。街中のカーブであっても、なかなかにハンドリングが楽しいです。
 全体的によくできたパッケージングで、速さは全然たいしたことありませんが、その分、ドライバーの手の中で操る喜びがある。現代におけるライトウェイトスポーツの、ひとつのお手本みたいな車です。こういう車、大好きなんですよね。
 そして二つめは、たぶん、ホンダというメーカーが好きなんだろうということ。
 きっかけはF1。昔からF1が好きだった。セナやプロストがいたあの黄金期、マクラーレン・ホンダに魅せられたおかげで、このメーカーには特別な思い入れがあります。最初に乗った車がインテRさんだったのも、そんな理由からでした。
 ミニもスイフトも、それぞれとても好みの車ではありますが、今回についてはタイミングが合わなかったとして、見送りとします。またいつか、この二台を購入することもあるかもしれませんね。
 とりあえず、今は新しく買ったフィットRSといかに付き合い、いかに楽しむか。納車したてのピカピカのボディを眺めながら、そんなことに思いを馳せています。

2011年2月26日

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